聖域wiki

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夢と睡眠(と脳科学や哲学)に関しての文献を漁ってはここにメモしています。自分の作品を知っている人は「だからか!!」と答え合せになるかも。最後に参考文献あり。

※お願い※

少しでも関連しそうな情報・書籍などにお心当たりのある方はDMやこちらからご教授いただけますと幸いです!

無意識とは何か(古代〜近代)

太古から人類は毎晩夢を観て、記録し解釈してきました。
最古の物語・ギルガメッシュ叙事詩にも夢の話が登場し、
それを寓話的に解釈していたことがみられます。
以下は、科学が発展するまでの間、夢や睡眠状態・無意識状態
がどの様に捉えられてきたかについてのメモ(一部ですが)です。​


ウパニシャッド哲学と睡眠

ウパニシャッドはヴェーダの関連書物の総称。
これに基づき、宇宙の根本原理(ブラフマン=梵)と人間の本質(アートマン=我)が同一であることを知覚することで解脱に至る”梵我一如”を主要な思想とする。

有名な「馬車の喩え」を下に示す。馬車の中にアートマンを乗せており、この馬車をうまく操ることでブラフマンと合一する(ニルヴァーナ)とした説話である。

アートマンは馬に乗る物であり、身肉は実に車であると知れ。理性は御者であり、そして意志はまさに手綱であると知れ。 -『カタ・ウパニシャッド』[3]

図1:馬車の喩え

ウパニシャッドには睡眠状態・夢眠状態・無意識状態の記述が多くみらるため、次に代表的なものを挙げる。

プルシャ(=アートマン)には3つの状態がある。
一つ目は目覚めている状態(現世)、二つ目は熟睡している状態、三つ目はその間の夢を観ている状態である。
 -『ブリハッド・アーラヤヌカ・ウパニシャッド』
[3]

図2:聖音オーム

アートマンは光である
光は暗闇に覆われる
この暗闇は妄想である
夢を観るのはこのためである
 -『バガヴァッド・ギーター』
[1]

アートマンは熟睡している時ブラフマンの世界に到達できる。 -『チャーン・ドーギヤ』[3]

ウパニシャッドは以降で触れるユング関連・睡眠関連の文献でも触れられがちなテーマである。


夢分析:フロイトとユング

ただ夢を観るだけでなく、夢を扱う実験が行われるようになったのは近代のことである。
身体感覚が夢に現れるというホッブスによる説が有力視されると、睡眠中の被験者に外部刺激を与える実験が行われるようになった。
フロイトとユングは心理学の父とされるが、その夢の理論の先駆者としてシェルナーがいる。
ある観念が夢に象徴化されて現れることや、身体感覚が夢に現れることなどを発見した。また、この頃から夢を操作しようとする実験も行われており、明晰夢の研究の先駆けとも言える。

フロイトは夢判断を用いて無意識の状態を解明しようとした。患者(被験者)本人に観た夢について自由に連想させる方法で分析を行い、
ここから夢はその人の願望を充足させる機能があることを提唱した。また、夢に現れるシンボルの多くが性的象徴であるという説を唱えた。
ユングは元々フロイトに師事していたが後に決別している。

ユングは患者の夢や幻覚を分析する中で、古代の神話と共通したシンボルが現れることを発見した。
人類は潜在的に共通したイメージ(=元型)を持ち無意識下に繋がっていると考えた。この無意識領域をユングは”集合的無意識”と名付けた。
両者とも無意識領域を解明するために夢を扱い、一つ一つの夢を解釈するというよりは夢のシリーズの中でのモチーフの現れを解釈した。
そこに性的なものと神的なものという違いこそあるが、夢のモチーフを象徴的に解釈することなどは両者の数少ない共通点である。[5]


ユングとウパニシャッドの関連

ユング心理学における”セルフ”や”エゴ”がウパニシャッドにおける”ブラフマン(梵)”・”アートマン(我)”に対応するという指摘がある。
実際ユングは東洋思想にも関心を持って研究していた。
ユングは、元型は人類に普遍的に備わるものであり、様々な像として夢の中に現れると考えた。
ある意味で人類の夢は繋がっているという提唱である。ちなみにかのThis manはフェイク広告である。

ユング:
セルフは夢のパターン(=元型) を作る

ウパニシャッド:
眠るとき心が支配者(神)となる
夢は心(神)がその中で楽しむため、
悪夢も同じである 

※異なる時代・民族の人が夢の中で同じようなイメージを観ることは実際にあるようだが、集合的無意識を証明することは勿論できない。ユング心理学は現代ではオカルト扱いされることもしばしばだが、ユングが築いた夢解釈の説は、非科学的だと切り捨てるにも…なのもまた事実。

夢と睡眠の科学(現代)


研究者たち:人名とその功績の一覧​​​​

1953年にREM睡眠が発見されると、夢と睡眠の科学は急速に発展する。そこから誰がどんな実験をしてなにが明らかになってきたのか…カタカナに弱く日々「どれが誰だっけ」となる自分のためにメモをしてきたものをここにもコピペ。所々ざっくりで書いてる。『』は著作名の自分用メモ。

・アラン・ホブソン
アメリカの精神科医。覚醒・睡眠・夢眠状態で脳がどの様になっているかを解明。猫の脳幹を切り離す実験を通して、脳幹の橋にREM睡眠を発生させる役割があると考え、覚醒時からアミン系の活動が低下するとノンレム睡眠に入り、そこからコリン系優位となるとレム睡眠になる=アミン系とコリン系でノンレム睡眠・レム睡眠が切り替わることを発見、この関係をAIMモデルとして示している。(精神疾患と関連するものであり、例えば、現在SSRIがレム睡眠を減らす可能性を示唆されていたりする。)ホブソン自身も精神疾患と夢の関連を研究しており「夢は精神疾患のようなものではなく、精神疾患そのものなのだ」としている。
また、夢に隠された意味があるといった考えに否定的で、フロイトにもかなり批判的だった。
ロバート・マッカーリーと共に脳神経の実験を行った。
夢の科学』『夢に迷う脳』『夢見る脳』『ドリーム・ドラッグストア』​
※ホブソンについては次項で詳しく扱っています。

・モンタギュー・ウルマン
超能力者と夢の実験を行った。

・ユージン・アゼリンスキー 
息子のアーモンドの協力の元、REM睡眠を発見し名付けた。1953年。

・ミッシェル・ジュヴェ
フランスの脳科学者。脳幹の橋が大脳へ運動ニューロンを活性化させる・脊髄へ運動ニューロンを抑制する指令を出すことを発見。また、猫もレム睡眠下で夢を観ていることを発見した。『夢の城』『睡眠と夢』

・スティーブン・ラバージ
アメリカの神経学者。明晰夢研究で知られ、ヨガや仏教・瞑想などの東洋思想や文化、ヒッピー(的)文化にも精通。
自身によるポリグラフ検査下での明晰夢中、目や手を使って外部にモールス信号を送ることに成功した。(この実験はそもそも西洋では明晰夢の存在があまり認められていなかった影響があるとみられる:要検証)
ある実験では、夢の中で数を数えたり歌う時、それに相対する脳の部分が活発に活動することを示した。また、性的な夢を見るときの性器の血流・筋肉の動きなどを調べ、現実世界での性的行為と同じ様な反応があることを示した。現実で想像するだけではこれらの身体反応は起こらず、ここから夢はただの想像によるものではなく、どちらかというと実際に行動しているのに近いのだと示した。『明晰夢-夢見の技法』
※ラバージについては明晰夢の項目で詳しく扱っています。

・フレデリック・ファン・エーデン
オランダの精神科医。明晰夢の名付け親。1913年。

・ウィリアム・デメント
眼球運動と夢の中の動きに関連があることを見つけた。例えば、夢の中で卓球のラリーを見ている時、眼球もその様な動きをすることを実験で明らかにした。

・ルイ・アルフレッド・モーリー  
睡眠中現実でベッドボードが首に落ちてきて、その際処刑される夢から目覚めた経験から、夢は目覚める瞬間に脳が作っているのだと考えた。(また、彼は長い時間を過ごす夢でも現実時間では一瞬たと考えていたが、この説は後に否定されている。)
 

・マシュー・A・ウィルソン
実験中に偶然、ラットが夢を見ている(≒REM睡眠)ことを発見。起きており学習をしている時のニューロンの発火パターンと同じパターンをREM睡眠下で示したことから、REM睡眠に記憶整理や学習定着の役割があることを示唆した。

・ロバート・スティックゴールド
アメリカの精神科医。スティックゴールド等は昼間テトリスをさせた被験者たちが夜にテトリスの夢を観るかを調査し、ヒトにおいてもREM睡眠に学習効果がある可能性を示した。また、こうした実験から健忘症の人は忘れているのではなく思い出せないだけであるということを示した。

・ジョセフ・デ・コーニング
カナダの心理学者。言語学習と夢への影響を調査。その後、上下が逆さに見える眼鏡をかけて生活すると夢も上下逆さまになるかを調べる実験も行った(半数の被験者は逆さまになった)。

・フランシス・クリック/共著者グレーム・ミッチソン
フランシス・クリックはイギリスの生物学者でノーベル賞受賞者。
夢と睡眠の役割について、「大脳皮質の神経細胞ネットワークにおける、ある種の望ましくない相互作用のモードを消去することである。逆学習メカニズムによりレム睡眠中にこの操作がなされ、そのために脳の中にある無意識の夢の痕跡は、夢によって強化されるというよりは、むしろ減弱されるのだと我々は仮定する。[]」と、”逆学習”説として提示している。人は夢を覚えていることがあるが、これはこのシステム上の失敗であり、夢を「覚えておくことは、忘れた方が良い思考パターンの保持を助ける[]」としている。なお、この説を裏付ける証拠はなく、検証すること自体が困難である。


人は何のために夢を観るか

現在、夢は何のために存在するのか?という問いに対して、世間一般では記憶の整理である説が主流となっている印象があるが、その他にも様々な議論・研究がなされている。代表的なものに、夢が現実のリハーサルであるとするシミュレーション説と、遺伝的・生得観念的行動のプログラミングであるという説などがある。

危機的状況へのシミュレーションであるという(レヴォンスオによる)説は、裏返せばフロイトの願望充足説にも通じる(危機的状況を回避したいという願望からのリハーサルの役割)と言えなくもないし、プログラミング説についてはその意味ではユングの提唱した元型がここに含められる可能性があったりと、やはり(フロイトはさておき?)ユング心理学は全くもって非科学的なものと切り捨てきれないところがあるかもしれない。


夢分析:ホブソンや渡辺恒夫

アラン・ホブソンもシミュレーション説に通じる考えで、子供が現実での成長へリハーサルをするために夢を観て、大人が夢を観るのはその名残であるという”行動リハーサル説”を唱えている。
ホブソンは「夢は精神疾患のようなものではなく、精神疾患そのもの」であり、そもそも心とは脳内の化学物質的変化のことであるとしている。
(心が単なる脳内物質的ものでしかないという、自由意志の否定ともとれるような事実について詳しくは後述。)

このように現在も様々な説のもと夢が分析されているが、それは精神疾患の治療に役立てる展望であったりと、どちらかと言えば一般化したものであり、個人が自分の夢の意味(何故その夢を観たのか)を知るための分析ではないところがあった。
これに対して、心理学者の渡辺恒夫氏は夢の現象学的分析は非専門家でも行える”手作りの科学”であるとして2021年に提唱しており、ホブソン等の脳神経科学方面の夢分析との相互補完的存在になること、個人が実践していくことを展望としている。[12]
※渡辺氏による夢の世界の構造論について、違うのでは…?と思うところがあったりもするのですが、だからこそ今後もっと多くの人が参入して修正・発展していくのを身をもって体験できる訳で、超楽しみです。

明晰夢

まれに「夢を観ない」と自認する人がいるが、それはただ覚えていないだけです。しかし明晰夢となると、観たことがない人も沢山おり、2万4千人以上を対象にした調査で、約半数の人に経験があるという報告[]がありますが、いつでも観られるという人は極めて少ないようです。

また、明晰夢は何でも好きなようにできるといったものではなく、人によって夢の中のルール(あるいは物理法則)は異なり、できることにも大きな個人差があります。

他の項目ではあくまで自分のメモとして書いていましたが、この項目では明晰夢を見たい人のために、主にスティーブン・ラバージの書籍[13]を参考にしつつ、過去にネットで得た知識の断片と自分の経験を頼りに書いてみました。

明晰夢の訓練法に移る前にラバージの言葉を引用します。
『人生の3分の位置を眠らなければならないとしたら、あなたは夢の間もずっと眠っていたいだろうか?』



夢を記録する

夢を記録したデータはやがて大いに役に立つ。
観た夢を起床後すぐ忘れてしまうと言う人もいるが、その様な人もまずは夢日記を書く習慣をつけることが有効とされており、習慣になるとだんだん隅々まで覚えていやすくなるとのこと。

方法としては、枕元にノートとペンを置いておき記録する・スマホのメモに記録する・ボイスメモなどで録音する などが挙げられるが、どうしても絵でないと記録し辛い場合を除き、自分としてはデジタルで文字として記録するのをお勧めしたいところ。ひとつのメモ/書類データに纏めておけば、例えば頻出する場所や物のキーワードで検索をかければ過去にいつ関連する夢を観たかがすぐに分かり、分析や検討もしやすい。口述して録音する場合も、今はAIがそれを高度に文字化してくれるアプリも沢山あるので、文字に変換した状態で蓄積するのがお勧め。

また、夢を覚えてい易くするためには、目覚ましをレム睡眠の周期の終わるタイミング(90分単位)に合わせることも有効とされている。



明晰夢の訓練法:
リアリティチェックと呼ばれる作業

​明晰夢を観るには、日常的に(初心者には1時間に1回を推奨されていることもしばしば)”自分が今夢の中にいるのか現実にいるのか”を確認する作業をすることが重要とされている。これはより意識を明晰にするために行うもので、頭の中で考えるのではなく、身体を使って検討することに意味がある。
様々な手段があり、どれが効果的かは個人差が大きいように思われるが、ネットの海を見る限りでは手を使うものが多い印象がある。手を見て指を折数えたり、掌を指で押してみて感触や突き抜けるかを試したり等。その他には、ジャンプしたり(夢の中だと重力の具合が違う)・鼻を塞いだ状態で呼吸ができるか確かめる(夢の中だと吸えてしまう)、等がよくみられた。
ちなみに映画『インセプション』ではアイテムを使うことで確認するそうで、コマを回し、やがて止まれば現実、回り続ければ夢、と判断するとのこと。(何故この映画を自分が観ていないかというと、この作品は何度挑戦しても何故か序盤で眠ってしまい未だ最後まで観ることに成功していないため。)
夢の中でもこの”チェック”を行えば、夢であると気付くきっかけになり、明晰夢に入り(次項)やすくなる。



明晰夢への導入法
(文字異常/MILD法/WBTB法)

まず、夢の中で夢と気付くことについて。
ラバージは『経験の少ない人の場合はおそらく、(中略)異常である ーつじつまが合わないとか突飛だとかー と認めることが、夢の中に意識を導く要因であることが最も多い[13]』としており、これは人によって様々な”夢の中あるあるのバグ”があるように思われる。自分の場合の例を挙げると、携帯の挙動がおかしいとか、歩行が若干しづらいとかで気付くことが多い。日常生活的な夢の方が気付きやすく、突飛な夢であればあるほど逆に気付かないかもしれない。
夢の中で異常を感じられたら、そこでリアリティチェックをするとよりはっきり明晰できる

この時、古典的な方法として頬をつねるというものがあるが、これはつねった感覚(夢の中でも痛みを伴うこともある)があるだけでまず意味がない。多くの人が用いる方法は空を飛んでみることらしいのだが、ラバージが最も信頼できる方法として挙げるのが『何か書いたものを見つけて(もしできるなら!)一度それを読み、そして目をそらしてから、もう一度それを読んで、それが同じままかどうかチェックする[13]』というもの。夢の中で文字が異常なく同じままであることは殆どないそうだ。わたし自身は夢の中で街全体やテレビの文字が文字化けしていることが多々あるが、そこで夢と気付くよりもむしろ脳の異常を疑ってしまうことが多いので今後はこの方法を試して追記する。

次に、夢の中への導入について。
明晰夢の最も有名な訓練法として記憶誘導法/MILD(=Mnemonic Induction of Lucid Dreams)法がある。
これは『覚えておきたいことを、自分が実際にやっている様子として視覚化する』方法で、夢を観て目覚めた後、夢を思い出しながら『「次に夢を見るとき、私は、自分が夢を見ていると分かっていることを思い出したい」と自分に言い聞かせる。/リハーサルとして、夢の中に戻った時の自分自身を視覚化する。ただし今度は、実際に夢を見ていると分かっている自分を想像する。[13]』というもの。いわば自己暗示に近い手法である

その次に有名なのはWBTB (=Wake Back to Bed)法と呼ばれているもの。こちらも夢を観て目覚めたあと二度寝する形で再入眠するが、レム睡眠の周期(6時間など)で起きること・起きたら一度ベッドを出て完全に覚醒してからBack to bedすることを手順としており、意識としては夢の続きを観ようと反芻しながら入眠する方法である。
どちらも高い効果が報告されているので、まずはラバージも勧めるMILD法で試してどうしても合わなければWBTB法、というのが良さそう。
その他の明晰夢に入るルートとしては「入眠時幻覚から意識を明晰に維持したまま夢に入る」というものがあり、実際自分にとってかなりの成功率を誇る方法なのだが、そもそも入眠時幻覚が観られないという人も多い。また、多くの人にとって寝入りしなのレム睡眠は極めて短時間であり、そのため明晰夢での活動もほとんどできない傾向にあるそうなので、この場合もやはり一度夢を観て起きた後二度寝する形で試みる必要はありそうである。



明晰夢の持続法(回転テクニック)

明晰夢は初心者ほど持続時間が短いとされ、折角明晰に成功してもすぐ終わってしまうことがある。これは単に途中で目覚めてしまうということだけではなく、むしろ夢の中で”明晰さを失う(ただの夢に戻ってしまう)”ことを指す。特に、「夢の中で起床する(=偽の目覚め)」ことで起床した”つもり”になって明晰夢が終了してしまう、というパターンも多々あり、こちらはむしろ訓練を積んでいる者に頻発する傾向があるとのこと。

ラバージは、そうした夢が消えそうになった時”コマのように回ってみる”ことを推奨している。この回転するテクニックは彼の報告でも極めて有効で、回転すると明晰したまま大抵はもう一つの別の夢に繋がるのだが、どういう訳かその新しい夢の場面は「その人自身の寝室の場面が多い」ということが非常に興味深い点である。
この回転テクニックがなぜ有効かについて、ラバージは神経生理学者らしく仮説を立てており、内耳の前庭器官によって頭や身体の動きを検知し脳が視覚情報と統合するためであるとか、運動感覚が脳の前庭系を刺激しレム睡眠を促進している可能性を指摘している。実際、急速眼球運動にら前庭系が関わっている。[13]

世界としての夢の中
(懐疑論/シミュレーション仮説/多元的実在論)

かつてデカルトは世界の実存を懐疑した。現実世界と夢の世界は本当に別のものか懐疑した。そしてその疑う意識こそは真であると確信したのが、かの有名な「我思う、故に我あり」。

このようなデカルトの考えの現代版といえるのが思考実験の「水槽の中の脳」である。
「あなたが体験しているこの世界は、実は水槽の中の脳(脳波を操作できるパソコンに繋がっている)が見ているではないか」という仮説。
この場合、あなた(脳)にとっての現実世界は本当はどこにも存在していないが、あなた(脳)は現実だと知覚しまくっている状態。つまりこれはあなたの夢の中の世界(明晰夢は除く)と大した違いはないのではないか?というもの。

また、この「水槽の脳」の脳だけでなく現実世界全てがコンピューターの支配下にあるとする「シミュレーション仮説」である。
この世界はシミュレーションの中なのか?というもので、これも同じく、証明も反証もできない。因みにシミュレーション仮説を否定する可能性の一つに、「計算が不可能な物理法則」がある。コンピューターで計算不可能な物理法則の存在は、世界がコンピューターの中にないことの証明になるというもの。ただし、シミュレーションを行なっているコンピューターがその中のコンピューター(現実世界だと思っている世界)の物より高性能(という表現でよいのか?)である可能性を否定できない問題があるそう。
ともかく、先程のような哲学的思考実験であるだけでなく、物理分野で議論される説でもあるということ。

我々は現実世界の存在を確信する一方で夢の中の世界を曖昧で非存在なものと捉えているが、現実世界は”世界”ではあるもののその実存が判らないとき、夢の中の世界も実在しないだけで(そして睡眠に伴う脳内現象であるだけで)”世界”ではあることになる。
一言で表現するなら”覚醒と睡眠をスイッチにして世界を切り替えている”、ということ。この状態を坂井祐円氏は「多元的実在論」とし、「実在の捉え方として、それぞれの世界がそれぞれに固有の実在性をもっているのであり、実在それ自体も多様であるとする[16]見方を示している。
坂井氏の考察には科学的根拠の無い(或いは弱い)ものが含まれるが、「主観としての意識にとっての物理的実在を問わない世界として、夢の中の世界を世界と捉える」ことを自分は支持したいと考える。

統計:
人間はこんな夢を観ている

面白いと思った調査結果をみつけたらメモします。


■夢の舞台になるのは、「本人が知っている実在の場所やそこに似ている場所」であることが多い(81%)という調査結果
この調査では 「異国の地」はわずか5%、「想像上の土地」は1%にも満たなかった。
G. William Domhoff-“Realistic Simulation and Bizarreness in Dream Content:Past Findings and Suggestions for Future Research” The new science of dreaming: Vol. 2. Content, recall, and personality correlates (pp. 1–27). Praeger Publishers/Greenwood Publishing Group (2007)
https://dreams.ucsc.edu/Library/domhoff_2007b.html

■「色のついた夢を観るか」の結果
3.4%が常に、4.2%がしばしば、10.9%が時々、色のついた夢をみたと報告している。 これらの合計は 18.5%。全国20歳以上の男女4,000人対象(2008年) https://www.crs.or.jp/backno/old/No609/6091.htm#:~:text=同じ夢をみる頻度,であると思われる%E3%80%82

■双極性障害の人の夢を集めての分析
鬱転・躁転の直前に見る夢にパターンがあることが判明。
鬱に入る前には大抵全体的に落ち込んでいる夢を見る一方、躁になる前には怪我や暴力や死の生々しい夢を見る。
躁状態の時には魔法や幻想、宇宙人の夢空を飛ぶ夢、不思議な生き物が出てくるなどの並外れた夢が多く報告された。
また、落ち着いた精神状態の時は生活の夢を観たと答える人が多かった。[8]
Kathleen M. Beauchemin,Peter Hays-“Prevailing mood, mood changes and dreams in bipolar disorder” The Journal of Affective Disorders (1995) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/016503279500036M?via%3Dihub

関連事項に関連する事項

もはやマジカルバナナ的になってしまったメモの断片。


古代神話における”眼と太陽”の関連
(プルシャ・松果体)

ウパニシャッド:
右目の中にはインドラ(=プルシャ)と呼ばれるものがいて、その向く方向によって認識が生じる。これがアートマンである。
-『ブリハッド・アーラヤヌカ・ウパニシャッド』

ヴェーダ:
神が供犠のためにプルシャ(巨人の原人)を殺すとプルシャの眼からは太陽が生まれた。
-『リグ・ヴェーダ』よりプルシャの歌

ブラーティアの右眼が太陽、左眼が月
-『アルタバ・ヴェーダ』よりブラーティアの歌

古代エジプト神話では、ホルスの右眼が太陽(ラーメン)、左眼が月(ウジャト)を象徴する。
日本神話ではイザナギの禊の際に左眼からアマテラス(太陽神)、右眼からツクヨミ(月神)が生まれる。
中国神話における『天地開闢』では巨人の盤古の左眼から太陽、右眼から月が生じる。
この様に似た様な(巨人)神話は世界中に見られるが、眼の左右と太陽・月は必ず一致するものではない。(西洋と東洋で分かれる)
※ホルスの目が松果体を表している説がある。松果体と言えばメラトニンを分泌するのでこれも睡眠と繋がりそうな気もするが、信憑性は特になさげ。松果体もまたスピリチュアル方面で注目されがちな器官で、デカルトが”魂のありか”とか呼んでたアレでもある。


梵我一如思想・ユングの集合的無意識の宇宙霊魂やガイア理論との関連

宇宙霊魂はプラトンが『ティマイオス』で提唱した、全ての意識が宇宙と繋がりを持つという概念。
ブラフマン・アートマンの概念やユングの集合的無意識にも類似している点がある。
その他東洋哲学や古今東西の思想にも類似がみられる概念であり、地球そのものを一つの生命体とみなすガイア理論にも通じる。 
※ガイア理論は環境科学に大きな影響を与えたりと功績もあるが、これもまた現在科学の理論として扱われることはない。


超常現象と明晰夢

夢に関する超常現象は多くあり、代表的なものに体外離脱体験・夢テレパシー・予知夢・共通夢などがある。臨死体験もここに含められることがある。
こうした超常現象が現在ではオカルトとされているのは、どれも研究・実証実験が行われてきており、その優位性は認められていないためである。(ただし、夢テレパシーについては成功例が数例ではあるものの報告されている)

超常現象を「超常ではない」と否定できるようになったことには、明晰夢を他者が観測できるようになったことが大きく影響している。
明晰夢状態であれば体外離脱に成功した時に外界に合図を送ることもできるし、何か文字を読んでみることなどを通して現実世界との違い(≒現実世界ではない根拠)を見つけることもできる。
共通夢も、夢の中で両者が出会った時に外界に合図を送ればそれぞれの夢が同じ一つの夢であるか、似たような別の夢であるかもリアルタイムで明らかになる。

ニーチェは『人間的な、あまりに人間的な』の中で「原始的文化の時代には人々は夢の中で第二の”実在”世界を見ていると信じていた」としている。ニーチェは、夢があるから人間が霊魂や死後の世界を考えるようになり、信仰が生まれたと考えていた。
ラバージは研究と自身の体験を通して、体外離脱などの心的体験は夢と同じスペクトラム上にあるものであり、明晰夢の一種であるとしている。
体外離脱体験を信じる人々がそれを”夢ではないと確信している”ことは夢の世界を実在する世界と考えていると言え、この点においてニーチェとラバージの考えは共通している。



自由意志はどこにあるのか

前述したホブソンの言うように、心とは脳内物質の変化のことでしかないのか?自由意志は完全に否定されたのか?について、マイケル・S・ガザニガ『〈わたし〉はどこにあるのか ガザニガ脳科学講義』[11]からのまとめ。

多くの人は自分の意思で自分を操作している感覚があると思うが、精神疾患や発達障害で服薬されている人はそうではない感覚をよく知っているかもしれない。
精神疾患自体やそのために精神薬を飲み脳内物質が調節されると、(時には別人の様に)感情や行動に影響が出る。そうなると感情や行動を決めているのは自分の意思ではなく脳内物質の変化でしかないと感じるだろう。

そもそも脳は自由意志が湧くよりも先に無意識下で決断を行っている。意識とはその後から辻褄が合う様に理由付けされた随伴現象でしかない。
これは1983年にベンジャミン・リベットが発見した事実である。現代において自由意志の議論が巻き起こったきっかけであり、物理学や神経科学をはじめとする学問の世界では決定論は根強いものとなっていた。

認知神経科学の父・マイケル・ガザニガもこうした理由から自由意志を否定しているが、彼はその上で決定論にも反論している。彼は反論の手がかりとして幾つかの概念を示しているが、ここで量子力学についてなどを長々と書くのもアレすぎたので2点以下に概要をまとめる。

・カオス理論とバタフライエフェクト
どんなに精密な観測をしても生じるごくわずかな誤差によって、やがてただの偶然と変わらないような不規則・複雑な結果になることをカオスと呼ぶ。
気象学者のエドワード・ローレンツは、気象予測のために数学的なプログラムを作成し、それを使って計算する中で、気象もカオス系であることを発見した。気象は多くの要因が複雑に絡み合っており、計測が複雑すぎて予測は困難なのだった。
そして1972年にローレンツが発表したのが「バタフライエフェクト」である。風が吹けば桶屋が儲かるどころか、ブラジルでの蝶が羽ばたきがテキサスで竜巻を起こすのである。(もしかしたら桶屋も儲かる。)

・創発
「創発とはミクロレベルの複雑系において、平衡からはほど遠い状態(無作為の事象が増幅される)で、自己組織化(創造的かつ自然発生的な順応思考のふるまい)が行われた結果、それまで存在しなかった新しい性質を持つ構造が出現し、マクロレベルで新しい秩序が形成されることだ」
すっごい適当に絵本「スイミー」で例えるなら、1匹1匹の性質(能力)の合計よりもでっかい特性(能力)が全体(スイミーを目とした魚群)には現れる、というようなことである。
脳でも創発は起こっていて、実行された判断と行動はさまざまな要因が複雑に作用した創発的な精神状態の結果なのである。

では、決定論が否定できたとして、自由意志が頼りにならない今、自由や責任とは何か?
ガザニガはここに非常に多くのページを割いているが、端的にまとまっていると感じた以下を引用する。
「脳は経路に沿って自動的に意思設定を行う装置だが、単体の脳をどれだけ調べても、責任感の正体に光を当てることはできない。責任感は人間が発揮する特質の1つだが、それは社会的なやりとりから生まれる。脳が1つだけでは社会的なやりとりはできない。最低でも2つ以上の脳が関わるとそこに予測のつかないことが起こり始め、それまで存在しなかった新しい規則が定まっていく。この規則に従って獲得された性質が、責任感であり自由なのである。」
さて、このようにガザニガが脳だけでなく人間の倫理観について考え講義していたその数年後、自由意志もちゃんと”有る”といえる事実が判明したそうである。
自由意志は脳が勝手に行った判断を確かに拒否できる。僅か0.2秒間だけどネ。
https://wired.jp/2016/06/13/free-will-research/

参考文献

あくまで個人的なメモであるため、引用元を記載していないこともありますが、引用する際はスマートフォンでご覧の方が殆どなのでインデントせず「」にぶち込んでます。
注を付ける際は[参考文献の番号]の形で書きます。
(記録を怠ってきたため取り敢えず手元にあるもののみ…今後URLとかも記録したいので今から書いておく)


  1. スワミ・プラバヴァーナンダ クリストファ・イシャウッド教編 熊澤教眞訳『バガヴァッド・ギータ』ヴェーダーンタ文庫、1970年。
  2. シャンカラ著 前田専学訳 『ウパデーシャ・サーハースリー』岩波文庫、1988年。
  3. 岩本裕編訳 『原典訳 ウパニシャッド』ちくま学芸文庫、2013年。​
  4. リチャード アッピグナネッセイ著 加瀬亮志訳『フロイト』現代書館、1980年。
  5. 名島潤慈『ユングとフロイトにおける夢解釈の比較検討』熊本大学教育学部紀要 人文科学、1991年。https://kumadai.repo.nii.ac.jp › …PDFユングとフロイトにおける夢解釈の比較検討
  6. 大住誠 『ユング 』現代書館、1993年。
  7. C.A.マイヤー著 河合隼雄監修 河合俊雄訳 『ユング心理学概説2 夢の意味』創元社、1989年。​​
  8. 渡辺恒夫著『人はなぜ夢を見るのか』 化学同人、2010年。​
  9. アラン・ロブ著 著川添節子訳『夢の正体 夜の旅を科学する』早川書房、2020年。​
  10. J・アラン・​ホブソン著 池谷裕二監訳 池谷香訳『夢に迷う脳』朝日出版社、2007年。
  11. ガザニガ.マイケル.S著 藤井留美訳『”わたし”はどこにあるのか』紀伊国屋書店、2014年。
  12. 渡辺恒夫『夢の物語論的現象学分析ー手作りの科学としての夢研究をめざして』 質的心理学研究 第20号、2021年。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqp/20/1/20_237/_pdf
  13. スティーブン・ラバージ著 大林正博訳『明晰夢 夢見の技法』春秋社。1998年。
  14. フッサール著浜渦辰二訳『デカルト的省察』岩波文庫 2001年。​
  15. 坂井祐円「夢の世界は現実であり実在している」ことを認める多元的実在論の考察-「生と死の境界」の夢の事例をめぐって」研究所報 、2024年。https://nirc.nanzan-u.ac.jp/journal/5/article/2356/pdf/download​​​
  16. 貫成人著 『図説・標準 哲学史』新書館、2008年。
  17. 藤代幸一監訳『図説 世界シンボル図鑑』八坂書房、2015年。
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